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このブログは小説・映画の「ブレイブストーリー」の二次創作兼雑記ブログです。原作者様、各権利元関係者様とは一切関係ありません。
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夏休みの宿題のよーに。
結局、8月いっぱいまでがりごりしてしまったなぁ~

ぐだぐだと長くなってしまいました・・・・!
山のよーな言い訳はまた後日にでもーでもぉぉぉぉ!
敗因は詰め込み過ぎかと(大泣)

まぁ、とどのつまりウチのサイトでは亘さぁぁんが最強、だなと。

つまんなくても、どんとこーい!な奇特な御方様。
宜しければひととき、御付き合い頂ければ幸いです。

狐草紙異聞ー別項ー花槐の咲く季節に

うん?

確か図書館から借りてきた本を読んでて、ってあれ?
僕、どこまで読んだのだったっけ?
何時も僕は読んだとこに栞を挿み忘れるからなぁ、何処まで読んだか戻ってからじゃないと、って?

あぁ、そうか。
これは夢だな、と妙に確信してしまった。


――――、なんで?

薄くて淡い霧の中にぽつん、と立っている自分に今更ながら、吃驚する。
空、なんだろうか。
自分の頭上を仰げば、とても綺麗な満月が煌々とカオを出した。

もしかして自分はダレカに呼ばれたんだろうかと、ぼんやりと考えてみた。

最近、誰かさんのせいでこういうことに慣れて来てるなぁ、と納得した自分に軽く眩暈を覚えるけれども仕方ない。ニンゲンって環境に順応する生き物だしね、と自分に言い訳する。

「うーん。今日は特に何もなかったよーな」

今日は美鶴のとこには行ってないし、と考えたところでハタ、と気付く。
もしかして、だから、なのかな、って。

「まぁ、嫌な感じはしないし。さて、どうしようか」

何気なく視線を下に落とすと雪みたいに白い小さな花がてんてんと、先まで続いている。
しかもご丁寧に淡い明かりが、ぽっと灯りだした。

「はぁーい、どぉも。お招き頂きまして」

ありがとう、は言わなかった。
意地が悪いかな、と思ったけど明日の朝にやって来る眠ったはずなのに解消されていない睡眠不足やら脱力感なんかを考えると、どうしても、ほんの少しだけど。
相手が誰であれ、チクリとしたくなっちゃうじゃないか、なぁーんてね。

「こーゆうのが、『鬼が出るか蛇が出るか』ってンだろうなァ」

自分で言っといてナンだけど、鬼も蛇も出ませんよーに。
むしろ出た後でやって来る(と、いいけど)神サマの方がもしかしたら厄介かもしれない。

取敢えず僕は薄い霧の中、かすかに甘い匂いを放つこの花を踏まないようにその先へ、歩き出した。


*

雲間からカオを出した白い、月。
いやに今夜の十五夜は白いな、と空を仰ぐ。

 ――――、なんだ?

今夜はやたらと烏が騒ぐ。
喧しい、と寝返りをうつと同時に今夜の寝床の大樟がさわさわと葉ずれの音を立てた。

「珍しいな?お前がこの時分に俺を起こしにかかるなんて」

「客人が訪っているのだから、お前。主たるもの出迎えるのが筋であろ?」

朔よりも濃い闇が笑う。

「あいにく、ヒトの寝しなを邪魔するような無粋な方は客人だと思わないので。あぁ。貴方でしたか、どうりで」

烏が騒ぐはずだ。

「先だってお前に会うたのは何時だったろうな。木埜憑鬼からお前の話が出て、なに久々に興がわいたのでね」

ありがたくない言を皮切りに羽搏く音がざら増して、大樟の周りに招いた覚えのない奴等が集ってきているのが分かる。仕方ない事とはいえ、目障りな事この上ない。

「九瑯様。八咫の一族がよく貴方をこんな時間に送りだしましたね。迷惑です」

その一言で傅いていた烏どもがなお一層、喧しく騒ぎ立て始めた。
お前はまた、とでも言いたそうに御仁がちらり、と此方を見たがこの場の喧騒の煩わしさが勝ったのか、小さな溜め息をひとつ零すだけで収めた(諦めた)

「なに、軽い戯れ言だ。お前達、下がりなさい。お前達がこの刻限に騒いでは五位鷺達の立つ瀬がないだろう」

烏どもの長たる存在に諌められて幾分かはマシになったものの、血気盛んな奴等はまだまだ五月蝿い。
それどころかこれみよがしに、ぎぃぎぃと調子づくのだから性質が悪い。

「我は下がれと言うたぞ?」

物言いは穏やかなのに、場にかけられた威圧感に容赦がない。

これもまた、珍しい。
やんちゃな方ではあるが、下の者に対して押さえつける様な物言いは避けるきらいがあったのではなかったか。

「鶴の一声ならぬ、八咫烏の一声ですか。おかげで静かになりました」

「そうか?一番、口性ないのが残っているではないか。木埜憑鬼の言うように、お前は相変わらずよの」

最後の一羽が静かに飛びたつのを見遣った御仁は、赤い眼を可笑しそうに眇めた。

「お互い様です」

「違いない」

なに、気紛れにね、と居住まいを寛げた後、悠然と翼を仕舞いこんで大樟を仰ぐ。

「確かに。清しい性を持った佳い木だ。邪魔して悪かった」

「! はぁ、それはいい、ん、ですが」

「どうした?」

「いえ、驚いただけです。どうなさいました?」

まさかとうとう耄碌したんじゃないだろうか。
よもやこの大虚鳥からはっきりと、殊勝な謝罪の言葉が聞けるとは想定外もいいところだ。

「お前、眼は口ほどに物を言うとは良く言ったものだけど。そこまで明らさまだと流石に腹立たしいな」

右脚と中央の脚の二脚で繰り出された蹴りをいなしながら、向き直る。

「それはそれは!すみません。で?八咫の九瑯様がしがない一介の狐に何用でしょう?」

「おうおう、そのようなこと爪の先ほども思うとらんクセによく言う。ふむ、なれば花見に付き合うて貰おうか」

「いえいえ、謙虚なもので。桜の季節はとうに過ぎましたけども、大丈夫ですか?九瑯様、やはりもうろ、つッ、痛いですよ」

大翼でばさり、と小突かれる。

「ふん。桜だけが花ではないだろうに。お前、桜のような手練に長けた女が好みか」

どうしてそういう話になるのか。
いい加減、老境に片脚(いや、ふた脚)突っ込んだ御仁らしく少しは節度って、も、のッ、

「あの、だから。痛いんですって。一度は見逃しましたけどね、一回は一回ですよ?」

ふわり、と風切り羽根が舞う。
いきなり容赦なく右の頬を叩かれたら、誰だって面白くない。

「はっ!小童が大層な口を聞くようになっただけでも褒めんとなぁ?見逃したとな!」

からからと泰然と笑う様が忌々しい。

「えぇ、当然でしょう?老寄りを立てるのが小童の仕事ですか、らァっ、てェェェェェェ!!」

火照った右頬にしゃっ、と鉤爪が走って浅い創傷からじわりと血が滲んだのが分かった。

「ほたえなや。まなこ位、潰されても文句は言えんぞ。とはいえ、我にそのような口を利くのもお前ぐらいだなァ」

いけしゃぁしゃぁと好々爺面して、嬉しそうに笑うのだから勘弁してくれ、と思う。
実際、ただ甚振られてるとしか思えない仕打ちしかしてないじゃないか、とさえ思うが昔からこの御仁はこの調子で。

「それはどうも。貴方が御贔屓にするぐらいですから、相当なんでしょうね!」

相も変わらず、勝てる気がしない。

「もちろん。相当いい女ぞ」

「はいはい。それは是非とも!お相伴いたしましょうか、」

この色惚け爺ィ、と言いそびれる羽目になった。

「!」

幽かな違和感と纏わりつくような甘い、匂い。


・・・・・・・、

・・・・・・・・・、あの馬鹿!!!!!


舌打ちをしながら辞去の挨拶を告げる事にする。

「九瑯様、申し訳ありませんが、」

後々の面倒な立ち回りを思うとウンザリしながら覚えてろよ、とここにはいない豆ダヌキに吼える。

「槐の花だよ」

彼の人はそう言ってから、眉間に小さな皺を作ると、ふっ、と笑った。

「は?え、ん、じゅ?花精ですか」

「お前、えらくそのヒトの子に入れ込んでるじゃないか。随分とまぁ、強い守を尾けたものだな?」

「そんなんじゃないです」

咄嗟に出て来たセリフが、どう転んでも肯定してるようにしか聞こえないのと、自分の問い掛けが無視されていることに苛立った。

「この天の邪鬼め。まぁ、いい。行こうか。呼んだのは、我の慣染みだ」

はぁっ、と其方を見遣った時には羽搏く音を残して既に気配が消えていた。

此方が問い質す暇を、とことん与えてはくれないらしい。

尾けた守が動いた気配がないと言う事は、危害を加えるモノではない、か。

まさか謀られた?
いや、腹に一物持った老獪ではあるが、あの御仁らしくない。

限りなく良く言えば豪放磊落、的確に悪く言えば傍若無人。

「先達する気もないのに、『行こうか』ね。つまりは追って来い、と」

さて。
暗がりに繋いだのは鬼か、仏か。

取り敢えず俺は盛大に溜め息を吐くと、其処此処に散らばった黒い羽根に狐火を灯して、渋々と重い腰をあげた。


*

見上げた空は何時もの空なのに。
月は、こんなにも大きく白かったのかと、今更ながらに吾は吃驚した。

白い花が満開に咲き誇る、枝垂れた大きな木の下で吾は待っている。
待ち人はもうすぐ其処に。
ほら、御優しい、床しい気配がもう、其処に。

ひらり、ひらりと花が散っていくのを見るともなしに見ていた先に、待ち人来たる。

「すみません。あの、ご期待に添えなかった、みたいですね」

振り返った吾のカオを見て、少年が申し訳なさそうに笑う。

「いいえ。お呼びしましたのは貴方様です。吾、そんなに失礼なカオをしていました?」

「少しだけ。あ、そういうんじゃなくて!あの、ちょっとだけ、悲しそうに見えた、ってことが言いたくて!」

不快に思わせたのは此方だろうに、慌てる様が可笑しくて、つい笑ってしまった。

「玉妃と申します。突然お招きしてしまって、弁えず不躾だとは思ったのですが、」

謝罪の言葉を続けようとした吾を、少年は忙しなく遮る。

「わわわ!!あのっ、もしかして僕の思ってることとかっ!!筒抜けなんですか?いやっ、べべべッ、別に!タマキさんだけじゃなくってですね、誰でもなんです!ちょーっと明日の朝がきっついなァ、とか思っちゃって!美鶴が呼んでもそう思いますからっ!!」

あの、えっと、すみません、と反対に謝られてしまった。
噂に違わず心根が真っ直ぐな御仔だと思う。

「美鶴。あぁ、三橋様のことですね。貴方様は随分、三橋様と仲が良いのですね」

「えーと、どうでしょう。僕は好きなんですけどね」

ふわり、と笑う。
この少年が笑うのは、とても心地佳い。
化生の者達に好かれるのも解る気がした。

「あの、そういえば、僕の名前!」

「亘様。違いました?」

ぱちくり、と瞬きをした後に小さく唸りだす。
何かに似ている、と考えているとふと、思い当たって笑いを堪えるのに苦労する。

「いいえー、合ってますゥ!うーん、毎度のことだけど、ナンだって会うヒト会うヒト、僕の名前知ってるんですかね?ちょっと不公平じゃないかなぁ」

「それはアヤカシですもの」

「ですよね」

ぶぅ、と頬を膨らませて、口先を少し窄めてぶすくれている。
そう、まるで小さなタヌキだ。あぁ、なんて可愛らしい。

「あの。ご期待には添えなかったんですけど、僕を呼んだのはどうしてですか?僕に出来ることなら、あの。出来れば、なんですけど。が、頑張れたらいいなとは、思います」

本当に、可愛らしい。

「そう。例えば亘様を使って三橋様を貶めようか、とか。亘様を獲り込んで吾の糧にしようか、とか?」

「ほえぇっ!!!」

「串談です。そのつもりなら、最初からこんなにお話なぞしません。直に三橋様も来られましょう、あの方とご一緒に。是非もないことです」

此方を凝と、見詰める眼に出合う。

「何でしょう?」

「これがタマキさん?」

歩んで来ると隣りに並んでほう、と吾の枝垂れた姿を仰ぎ見る。

「はい。吾はね、槐の花精なんです。吾を見るのは初めて?」

ざぁ、と渡った風が散らした花に手を伸ばす態に笑うと、少しだけ場都が悪そうに含羞んだ。

「はい!カ、セイ?カセイ、カセイ、アサヒ、イヒ!じゃなくて。あぁ!花の精!」

ぱちん、と手を合わせて嬉しそうに頷く仕草も見ていて好ましかった。
もし吾が仔を持てるのならこんな御仔がいい、と思うぐらいには。

「綺麗ですねぇ。夢の中で言うのもアレですけど、やっぱり夢みたいに綺麗だなァ。でも、散っちゃうのは勿体無いですねぇ」

勿体無い、と言われたのは何時以来だろう。
それを聞いて嬉しく思うのは自分が女だからか、花精だからか、どちらなのだろうと考えても詮無いことを思う。

「夢じゃありませんよ」

「は?」

言の葉を失ったこの仔には悪いのだけど、少しぐらい意地悪をしても良いだろうか。
たぶん、三橋様がいらっしゃるのには、もう少し掛かるだろうから。
悪巫山戯が少しぐらい過ぎたところで、大したことはないのだし。

「だから、夢じゃないんです」

「え?」

そっと、手を取る。

「捉まえました。亘様、花精が『花だけ』の者だとお思いですか?槐の花。本当にこの様な匂いなんでしょうか?」

計らずともそのよう様に振舞えるものなのだなと思うと、知らず、笑いが込みあげるのだから吾も性質が悪い。
あまり傾くのは趣味ではないのだけれど。

「えっ、えっ、えっと!!これっ、違う!!!」

亘様が泣きも喚きもせずに、吾を見据えて言いなさるから。
貴方様がお勇ましい、賢しい御仔で吾はとても、嬉しい。

「これっ!!!習字の、墨の匂い!!!!」

ひと際、涼しい風が渡って花がさざめき、青嵐来たりて闇が凪ぐ。
宵闇よりも冥い、紫闇が音もなく忍び寄って来る、懐かしい気配。

「目覚しいな、ヒトの仔よ」

烏の濡れ羽色、と初めて耳にした時はなるほど、ヒトも偶には洒落た事を言うと思ったもので。
その色を認めた時から吾の中でいっとう好きな色になった。

散り急ぐ花弁の中、悠然と両翼を広げて吾に降り立つ御身は悔しいぐらいちぃとも御変りなくて、恨めしくも、ある。

あぁ、あぁ、御前様。
本当に、御前様は間が良いのだから、敵いません。

「悪戯が過ぎるだろう?玉妃」

そうやって、可笑しそうに眼を細めた御前様の方が吾などよりも余程。
人が悪そうに笑うのです、出逢った頃からずっと。

だから吾、御前様に負けじと笑おうと思うんです、出来るならこの先も。


*

何がそんなに可笑しいのか。
くすくすと軽やかに笑うのは、何時までも変わらないのだなと思う。

「だって御前様。ヒトが応えてくれなければ、吾、この様に姿を映せませんもの」

「その必要があるとも思えんな。玉妃、お前ワザとだろう」

「そんなヒト聞きの悪い。ね、亘様」

バレました、と言わんばかりに玉妃の含み笑いがいっそう濃くなった。

「あー、えーと。取り敢えず、貴方はドナタですか?ってとこから始めてもいいですか?」

「構わんよ、ヒトの仔。しかしね、名乗る程でもないよ我は」

名を冠する異形の者であればヒトに己の諱を知られるのは、まして呼ばれるのは忌避すべきだ。
ヒトが思う以上に各々の名には意味も力もある。

「あの、貴方も僕の名前知ってるんならズルいですよ、それ」

唸りながら腕を組んだかと思えば、我を見上げるとにこり、と笑いながら嘯いてみせた。

「僕も貴方のこと名前で呼びますから、貴方も僕のこと名前で呼んでください」

僕ァ自分の名前、好きなんです、と痴れりと言ってのけるあたり、あざとい。

この我に?
なかなか、如何して面白い。
思いがけず強かな処が気に入った。

「推参な。だが面白い、赦そう。我は八咫烏の九瑯と言う。幾久しく、ヒトの仔」

「あーもう気に喰わないなぁ。まぁ、いいですけど。えぇと、ですね。ヤタ様?ヤタさん?クロウ様、クロウさん?」

「好きなように」

「ありがとう御座います。うーん、そうかぁ、烏だから、キュウちゃんってのも捨て難いですね」

よう言うたものだ、真名を呼ばなかった意趣返しのつもりらしい。
最後に呟かれた耳苦しい字は、赦し難い。
己の矜持は其処まで安くない、と口を挿む前に不届きな忍び笑いが洩れる。

故意に気を殺がされるのは面白くないが、あれは何時もの事なのだから仕方ない。

「いい加減、お前は笑い過ぎじゃないか」

「御許しを。いえね、三橋様以来じゃないかと思いまして」

諌めるように穏やかに笑まれてしまえば、口の挿み様がなく、それきりだ。

「御前様、お気に召しました?」

「随分、性急に散らす」

問われたことを流してしまえば、もう、と不満げに溜め息を吐いて、それから艶やかに笑った。

「終の煙ですから、あまり長々と居残っていても仕方ないでしょう」

「厭な物言いだな」

「あのっ!此処は僕の夢の中じゃないんですか?その、それにタマキさん、その、大丈夫なんですか?」

しばらく口を噤んでいたヒトの仔が控え目に問うてくる。
ざぁ、と枝垂れ槐が風にそよいでひととき、沈黙が降りた。

「いくら巧く似せても、匂いさえ本物に勝てませんねぇ。吾、墨画なんです。ですから此処は吾の軸の中、」

といったところでしょうか、と玉妃は微笑んだ。

「じく、」

「はい。紛い物の花精です。大陸から渡って、千歳百歳になりましょうか。永いこと散り続けておりましたが、吾の命数もそろそろ尽きるようです。御前様、御前様」

つ、と幹に寄ると自分の弓手を指差して此処に来いと手招きをする。

「断る」

「クロウさん、いいじゃないですか。タマキさんが呼んでるんです。僕なんかじゃなくて、ね!」

これ見よがしの厭味にぎりり、と睨んでみてもいけしゃぁしゃぁに宣う。

「亘様、お気を悪くさせてすみません。御前様も、亘様のご機嫌を直すの手伝って下さいな。それに折角、亘様の御蔭で満願叶ってヒトの姿を映せましたのに」

ね、と笑いながら強請る。
仕舞いには面倒になって結局、何時もこれに押し切られる。

「勝手なものだ。何時もの事とは言いえ、仕様のない」

「あい、すみません」

少しも悪びれずに弓手に我を据えると、御座なりに一礼してみせた。
見下ろされるのは好まない、が。
これには何時も見下ろされているんだったな、と思い至る。

「僕、少しはお役に立てました?タマキさん」

「充分に」

そうですか、と呑みこむ様に言うと、ヒトの仔はくしゃりと顔を歪めた。

「亘様、亘様。そんなカオなさらないで。湿っぽいのは嫌いです、だって花精ですもの。あぁ、こういうのを野辺送りと言うんでしたか?」

「知りません!湿っぽい?違います、タマキさん。僕は泣いてなんかいません。僕が怒ることじゃないかもしれないけど、僕、怒ってますから!」

哀しいのは厭なんです、とそれだけは我に向って吼えた。

なんだ?そんなものは知らない。
見詰めてくる眼の強さに、つい逃げるように視線を外す。

逃げる?何故、そう思ったのか。
埒が明かない、もしくは放られたのか、今度は玉妃に向って唸った。

「ヒトが呼ばないと、姿を映せない?それならいくらでも呼びますよ、僕ァ。どうぞどうぞ!喜んで!オマケで美鶴を呼ぶダシなりエサなりにもなりますとも!だけどですね、こんなのに喚ばれるのは、厭です」

「いえ、亘様をお呼びしたのは吾の、我が侭です。あの、どうして亘様はそんなにお怒りになるんでしょう」

「葬式に呼ばれても嬉しかァ、ないってことです。満願って、そんな!それだけでいい筈ないじゃないですか!!墨画の貴女がヒトの姿に為ってンですよ?もうちょっと、頑張りましょうよ!!あー、もう!アヤカシのクセに、悟んないで下さい!」

ほら、泣いてるじゃないですか、と玉妃に喰って掛かる。

言われて見遣れば、あれは泣いてなどいないのに好き勝手な事を言う。
それだけでいい筈がない?何故?

充分ではないか。最期に墨画が化けたのだから。
まやかしだとしてもヒトに為れたのは誉れな事で、充分な手向けではないか。

「不満か?天命に口出しするものではあるまい。受け入れるのが道理だろう」

「へぇ、烏ってやっぱり、阿呆なんですね!言わせて貰えばアンタ何しに来たんですか?そんな顔で説教されても、説得力ないですけど!」

「ほぅ。賢しらなことを言う。さて。頸を落とすか、それとも縊ろうか」

ざわり、と確かに心の蔵あたりを毛羽立つ感覚が其処に在る筈なのに、遠い。

遠い、と思うのは何故なのか。

「御待ちを!御前様、」

ヒトとは違う。
ヒトの様に己で仔を産みだしたり、他者を生かすことが如何に難しいことか。
奪う事は得手でも、与える事は不得手、―――ふえて?

まだそんな事を思う己に、驚く。

「クロウさん。僕は、僕の出来る限りはタマキさんの力になりたいって思います。だってタマキさんは僕を呼んでくれたから。貴方は自分の意思でここに来たんですよね。ただ、見送るだけの為に、来たんじゃないでしょう?」

あぁ、眩しい。
何時か見た目蓋の裏に鮮烈に滲む、日輪。
ヒトの仔があまりにも容易く、涼やかに、己の在り様を見つけ出すものだから、堪らない。

「そう思うのか?」

「思います。確りして下さい、年長者なんですから」

小癪な。
分不相応に強情な処も、向こう見ずな甘さも、只管に自身に正直な処も。
どちらにせよ、可愛くはない処があの小童に、似ている。

余りに忌々しくて、憎々しくて、笑う。

「ヒトの仔に言われるとは、恥じ入るね」

己が歩んできた道筋に、千載を往く間に、喪くしてきたものは少なくはない。
失くした事さえ忘れる様になったのは、その方が都合が良かったからだ。

立ち止まってはいけない、振り返ってはいけない、顧みてはいけない、心を残してはいけない。

他者も己も、そう望んだ。だから後悔はない、ただ。

「御前様?」

ただ、このヒトの仔を見ていると思い出してしまった事がある、それだけだ。

いつか己が希んだセカイは広く、鮮やかで美しかった。
少なくとも、向けられる眼差しの眩しさぐらい、どうともない程には。
何時から色のない、くすんだセカイになってしまったのか。

どうしてかな、己が随分と歳をとった様に思うのは。
ヒトも異形の者も、若しくは神でさえ老成ると禄なことはない。

あながち、奴の言うように耄碌していたのではないか。

――――――、などと。言い訳していても仕方ない。


「其処の。お前、生意気にも本気で殺るつもりだったな」

くくくっ、と人を喰った笑い声が無遠慮に響く。

「いいえ?しっかし『阿呆』とはね!亘、お前、八咫の総大将相手にまた派手に喧嘩を売るねぇ」

「美鶴ッ」

「三橋様」

小童め。
件の悪たれは先程まで我が居た場所にだらりと脚を組んで腰掛け、頬杖をつき直すと愈々、愉しそうに笑みを深めた。

 *

「まったく。貴方がさっさと此方に渡ってしまったので、俺はずーいぶん手間取りましたよ?待遇の改善を要求したいですね!ブツを探すのにも一苦労です」

「お前なら、大丈夫だろう?それに正しく我の意も汲んでくれた様だしなァ。持ち出せたのか?」

まぁ、簡単ではなかったですけど、と遅れてやって来たて来た神サマは、ムカつくぐらい呑気に笑うと、ひょい、と僕の真横に降り立った。

「なるほど、花見には違いありません、が。九瑯様、幾ら自分で送るのが嫌だからって、俺に押し付けないで下さい。意気地のない」


「隠れた振りを何時までしてるのか思えば、出歯亀が狐によう化けたものだ。ふん、お前なんぞよりこのヒトの仔の方が余程、気概があるね、全く」

心外だ、と言わんばかりに肩を竦める。
人外のクセに外人ぽい仕草すんなっつーの。

「女一人、マトモに援ける事も看取る事も出来ない腑抜けた御仁より、幾分マシなつもりですけどね」

「寝小便垂れに毛が生えた様な餓鬼に言われたくない」

「耄碌した色惚け爺ィがよく言う」

「はい!ストップ!!はい、そこまでねー。お相子ねー」

放って置くと血みどろな事態(多分、美鶴の方が)になりそうなので、早めに待ったをかける事にする。

「あのね、美鶴。クロウさんの言うように盗み聞きは良くないと思うよ。いっつも出て来ンの遅いし。ヒトの事言う前に、助けるなら早くしてね」

ここは言わせて貰う。
クロウさんに啖呵を切ってみたものの、実際もんのすんごく!怖かったから、死ぬかと思ったから、あの馬鹿死んだら恨んでやると思ったから。

「お前ね!俺がそうそう助けてやると思って、」

「思ってるよ。だって、美鶴、僕のこと好きだもん」

あ、刺激が強過ぎたかなと思うぐらいに、この場の空気が固まった(美鶴と僕以外)のが解った。
冗談が通じないのも考えものだなぁ。

でもそれは少しの間だけで。
最初に声を立てて笑ったのはタマキさんだった。
何処か諦めた様に笑うんじゃなくて、なんて言うか、そう!花が咲くみたいにぽんぽんっ、てみたいな感じに。

「そう、ですねぇ。吾、そう言えば良かったのかもしれません。亘様にそうまで言われたら敵いませんねぇ、三橋様?」

「あぁ、もう慣れたんで。言わせておけばいい」

ウンザリした様に手をひらひらと振る。
本人気付いてないけど、否定された事は考えたら一度もない。

「で?九瑯様、このまま黙って花見を続けるんですか?まぁ、時間外労働も今ならしてもいい気にはなってますけど」

「なぁ、お前達。我は己が思う以上に、花見が好きではなかったらしいよ」

クロウさんは、今も花が止め処なく散り続けている枝垂れ槐を仰ぎ見た。

「散る花を見るのはなんとも湿っぽくていかんな」

「ふぅん。ま、そこら辺は大丈夫なんじゃないですか。昔から枯れ木に花を咲かすのは爺ィ、」

ごっ、と見事なアッパーが美鶴にキマッてた。さすが。

「ふん。その爺ィの拳ぐらい、一度でいいから躱してみたらどうだ?」

「クソ爺ィィィィ」

あーもう、なんだかな、大人げない。
神サマ二人が、牙を剥いて(主に美鶴)臨戦態勢を崩そうともしない。
花見ってもうちょっと、風流だとか侘び寂びだとか味わうものじゃなかったっけ。

僕が半分意識を飛ばしていると、くすりと笑う気配がした。
それはもう、悪戯っぽく。

「御前様、わたし、あなたを帰したくなくなったのですが、どうでしょう」

それは唐突だった、と思ったのは僕だけじゃなかったらしい。
あまりに唐突過ぎたのか、僕でもクロウさんが眼を見開いたのが解った。
美鶴は小さく溜め息を吐いて、お役御免だな、と呟く。

「ヒトにも忘れられたわたしを、あなたは見つけて下さった。本当はずっと、あなたを見送るのは厭だったのですね、わたし。見送られるのも、厭になりました」

「お前がそれを言うのか?」

クロウさんが不機嫌そうに見えた、のは「見えただけ」らしい。

「だから『散るのは惜しい』と何時も言っていたじゃないか」

正しく言えば、拗ねている。
ヒトもアヤカシも、もしかしたら神サマも女の人の方が強いんじゃないだろうか。
それにしても僕が知っている神サマってのはとことん素直じゃないわ、無駄に態度がデカいわ、恐ろしく口は悪いわ、ロクなのがいない気がする。

「帰るぞ、亘。これ以上此処に居るのといい加減、蹴られるぞ」

馬より性質の悪い烏にな、と言った傍から蹴られそうになっていたけど、今回はリーチの差で助かっていた。

「え、ナニ、帰っちゃっていいの?」

「あぁ。柱が此処に残るって言うんだから、俺が渡す必要もなくなった。まぁ、面倒な事になるだろうけど、お前が気にする事じゃない。っても、八咫の一族が五月蝿くなりそうだ」

心底嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「『老兵は死なず、ただ消え去るのみ』だったか?彼奴等もそろそろ尻の殻が取れてもいい頃だろうて」

「言いますねぇ。丸投げにしたいだけじゃないですか」

諦めた様にぼやくと、まぁそれもそうか、と底意地が悪い笑みを浮かべた。
八咫の皆さん、健闘を祈ります。合掌。

「亘殿」

「はい?」

ヒトの仔、じゃなくて僕自身を、呼んでくれた事に吃驚した。

「後で礼を届けよう。何せヒトに阿呆と言われたのは初めてだからの、期待するがいい」

クロウさんの赤い眼の虹彩がぐるぐると愉しそうに廻りだして、美鶴がぱちん、と指を鳴らすのが遠くで聞こえた。

「あのっ、亘様!また、此方にいらして下さいね」

最後に見たのは、タマキさんの嬉しそうな顔。

うん、やっぱり泣き笑いのカオより、ずっとこっちのカオの方が僕は、好きだ。
 

*

水の中から、うわん、と水面に浮き上がって来る様な浮遊感。

「いやあのっ!そーいや、そっちにどう行けばッ、て。結局、夢オチじゃん」

むくり、と無理に身体を起こすと机の上で突っ伏して寝ていたからか、関節がヘンに痺れてじんじんした。

「マァな。仕方ないだろう、お前ヒトだし。俺達みたいに画から抜けれないだろう?」
 
「当ったり前じゃん、って!うえっ、美鶴!?」

その声の持ち主は図々しくも僕のベッドに腰掛けて、呆れたような目線を手にした掛け軸に送っていた。

「ッたァっ!せめてベットで寝てる時とかにしてくんないかなァ?まぁ、美鶴に言っても仕方ないけどさ」

蒸した部屋の空気を入れ替えようと窓を開けると、はたはたと図書館で借りた本のページが風でそよいだ。
何気なく視線をそっちに向けると、ひらりと白い花が舞っているのが見えた。

「なっ?!これ、タマキさんの?み、美鶴ッ、」

散るのは止まった筈じゃなかったの、と喰って掛かる前にばさりと掛け軸を押し付けられた。

「止まった。それは名残だな。それはいいにしてもあの爺ィ、少し浮かれ過ぎじゃぁないか?」

はん、と不満げにぼやくので何だろうと手許の掛け軸を見た。

「なにコレ?」

「あの花精が描かれてる墨画だ。正確に言うと、相が変わったんで描かれていた、になるけどな。今還って来たのはソコからだ」

 ソレひとつ探し出すのにも苦労したんだと、いいよいよ疲れた様にぼやく。
 
 「ね、美鶴」

開いた口が塞がらない、って言うのはこういうことを言うんじゃないだろうか。
 
「なんだ」

「あのさ、クロウさんって幾つ?」

「だから浮かれ過ぎだ、ってンだ。年甲斐もなく、若造りってェェェェェっ、」

ごん、と掛け軸の中から現われた手は紛れもなくヒトの手で。
美鶴に拳骨で鉄拳制裁を加えていた。

「ッ!大体!八咫の宝物殿に侵入るのにどんだけ苦労したと!?オマケに俺は盗人紛いの事までしたんですよ!?言っときますけど、これは貸しですからね!返して頂きますから、その御心算で!!」

負け犬(狐、しかも神サマだけど)の遠吠えにしか聴こえないのはこの際、黙っといてあげよう。
 
だって、ほら。
 
 
にぃ、と笑うクロウさんは長い黒髪をひとつに纏めて、全身黒尽くめの袴を纏った如何にも風流人、なイイ男に為っていた。

あー、まぁ美鶴が一言物申したくなるのも分からなくはないなー。
面倒な事も山積みだろうし(主に美鶴がね)

まぁ、でも取り敢えずは。

「御元気そうで何よりです。クロウさん、タマキさん」


薄く滲む月の下、満開の枝垂れ槐をバックにタマキさんがクロウさんに内緒話をするみたいに寄り添っていた。



ーメインだった筈の骨董のオマケー


「ひぃぃぃぃぃ!!!!みっ、みっ、ミィィィィ!!美鶴ッ」

「あん?」

「ああああああああ!脚っ!!!脚が落ちてるッ!スプラッタ、ってーか本が血まみれナンですけど!?ナニこれっ!!!」

「あー、あの人なりの礼なんだろうな。八咫烏は三本脚だから、一本もいでも問題ないだろ。亘、それ、滅多に見られない霊性が強い守だからな。感謝しとけよ」

「カッ!カラスの生脚なんているカァァァァ!!!」

――――、結局。


クロウさんの生脚は彭侯さんにお願いして鋳物にして貰った。
そうしてブックマーカーとして今、僕の手の中にある。
月の綺麗な夜に時々、本の中から逃げ出そうとして大変なのがタマに傷だけど。

そうそう、クロウさんとタマキさんの掛け軸はしばらくは美鶴のお社に飾ってあったんだけど。
こんな薄暗いとこに居られるか、とクロウさんが暴れたので、結局彭侯さんの迷い家の床の間に落ち着いた。

ますます、会い難くなってしまった。

だからこんなにも月が白くて大きい夜には。

月明かりの下、あの満開の枝垂れ槐に嬉しそうに寄り添っている二人を時々、懐かしく、思う。

 

 

 

 


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