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このブログは小説・映画の「ブレイブストーリー」の二次創作兼雑記ブログです。原作者様、各権利元関係者様とは一切関係ありません。
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お前それ、どう考えてもシャレになんないじゃないかー、とは思う、のだけども!
それでも、どんとこーい!な御方様、宜しければお付き合い下さると嬉しいです。



そう、それはヒトメボレ、だった(敢えて言うが、米ではない)
そうして、それがオレのハツコイ、でもあった。

だけどふたつの単語を並べてみても、どうもしっくりこない。
言葉としてはとてもぴったりくるのに、(やや陳腐ではあるが)感覚としてはしっくりこない、そんな感じ。
そうは思うけど、それ以上の言葉を持ち合わせていないのだから仕方ない。

そう。
おそらく、自分にはもしかしたら一生縁のない部類の単語たちだったはずだ。


・・・・・・・、だったのに。


鳩よ、来い

 

これは、ナンだろう。
いや、ナンだろうって、見ればわかるけど。
その物体が此処に、其処に、オレの目指す先にも散らばっているのがほんの少し気に食わないだけだ。

なんてことのない、銀色の折り紙で折られた鶴を拾い上げる。
手の中の鶴は、ひどく不恰好だった。
何度も折り直した後があるし(銀紙だから折り目が目立つってのもあるけど)顔の部分、正確に言うと嘴部分の折り目が合ってない。

「へたくそ」

思わず漏れたセリフと、自分の声が思った以上に低かったのに吃驚した。
少し、と言わずかなり気に喰わなかったらしい。
知らずに溜め息を吐いていた。

この先に先客がいる。
もしかしたら厄介なことに年下、かもしれない。
オトナがここに来る理由は特に見当たらないし、同い年ぐらいの奴等なら、たぶん。
こんなとこには、来ない。来たって特に何もないから。

来た道を戻りかけて、やめる。
今、ウチにだけは帰りたくないのを憶いだしたから。
それに、コレが在っても、もうニンゲンは居ないかもしれないし、と手の中の鶴を放る。

さして飛びもしないで堕ちていった先に、蜆花の群生がある。
八重咲きの白い小花。
しなやかの伸びる枝に雪が積もったみたいに咲く姿が気に入って、図書館で初めて自分で花木の名前を調べた。

もう少し行った先には、金雀枝。これも嫌いじゃない、と思ったから調べた。
眼にも鮮やかな黄色の小花は蝶に似ていなくもなく。
枝垂れた金雀枝が風に揺らされると、つい見いってしまう。

ここは静かなのに賑やかだ。だから、好きだ。
音のない世界は好きだけれど、色のない世界は詰まらない、そう思う自分は我が侭なんだろう。
だから自分に断りもなく、勝手にこの世界に入ってこられるのは気に喰わない。

自分だって闖入者には変わりないけど、と一瞬思ったことはこの際、棚に上げとくことにした。
賑やかな枝道を抜ける頃には、こことはまた違う、世界にでくわす。

と言ってもなんてことはない、ただの朽ちた鳥居と色褪せた幟と、小さな社があるだけ。
三橋神社のような仰々しさは全くなく、祠を少しだけ大きくしたような程度だ。
社の扉は開きはしなかったけど、濡れ縁のぐるりは結構な広さがあるし屋根が切り出しているので雨は凌げる。

オレが特に気に入ったのはこの空間が、ひっそりと閉じた世界だったからだ。
此処にはオレの嫌いな「時間の流れる音」が、ない。
どちらかと言えばそう、「積もっていく」気配がひっそりと在るだけだ。

それがとても好ましい、と思った。
だから、オレも出来るだけこの閉じた世界を邪魔しないようにしきてたつもりだった、のに―――、

モノクロームの写真の中で、極彩色に出遭った(様な気がした)
ばら撒かれた不恰好な鶴、濡れ縁に散らばっている折り紙、を腹這いになって折っているニンゲン。

「踏んじゃダメ。その鶴サン、うまく折れたンだもん」

言われて足許を見ると、不恰好な鶴を踏みつける一歩手前だった。

「コレのどこをどーみたら、そう言える」

「んー?」

鮮やかな極彩色、もとい。
真っ赤なコートを纏ったニンゲンがよいしょ、と濡れ縁から階段を飛び越えてオレに近づいてくる。
ほらやっぱり年下、オマケに女子という厄介なイキモノじゃないか。

ウルサイしメンドウなことにきっとなるから帰ろう、一方でそう思っているのに。

「なに」

もう少しだけこの色を見ていたい、ともう一方では思ってしまった。

「んーん。あ、これ、違う。もっとうまく折れてるヤツあったよ。あ!ほら、こっち!」

ね、と差し出されたやっぱり不恰好な鶴を受け取りながらモリオンみたいな眼だな、とぼんやりと思った。
薄く射す陽さえもはねのける真っ黒な虹彩だからこそ、眼球の白さが妙に光るのか。

とても、きれいだった。

「ねね、ねね、ねぇってば」

袖口を引っ張られるまで、自分が惚けているということに気が付かなかった。

・・・・・・、おかしい。

風邪をひいている訳もないし、ましてや花粉症の薬を服用してる訳ではないのに。
どうしていま不用意に意識を飛ばしてたんだろう、このオレが。
まさか急に眠気が、って、あるわけないだろう、ナルコレプシィでもないのに。

「おにいちゃん?聞いてる?」

「聞いてる。それからオレはお前のお兄ちゃんじゃない。ほら、これうまく折れたんだろ、返す」

いらないからと言おうとして、やめた。そこまで言う必要はきっと、ない。

「ん。あのねー、鶴!つるつるつる、つる!鶴、折れる?折れないなら教えよっか、おにーちゃん」

ナニがそんなに可笑しいのか、ころころとよく笑う。

「いい」

「あ!おにーちゃん、ご本持ってる!!ホタルもねー、持ってきたんだぁ、折り紙の!!」

ヒトのハナシは聞け、だからオレはおにーちゃんじゃない(って言わなかったけど)
ちょろちょろちょろ、纏わりつかれるのは好きじゃない。
やっぱりメンドウなことになった、ウルサイのは御免だ。
此処から追い出す、という選択肢もあったけどそれじゃぁあまりにもオレが大人げない、だったら。

「じゃぁな。あと、明るいうちに帰れ。此処はすぐ暗くなるから」

早々に退散することにした。
取り敢えず忠告はしてやった、オマケに譲歩もしてやった。
ようやく春らしくなってきて陽が落ちるのも遅くなってきたとはいえ、此処はあまりヒトが来ない。
オレにとってソレが好都合でも小さな子供、多分、アヤと同じぐらいの女の子にとっては確実にいい環境じゃない。

「あ!」

不自然にならないように捉まれた袖口を外そうとしたら、逆にしっかりと手を握られてしまった。
なんなんだ、この子。
見上げられた瞳のきららかな黒に、捉まる。

「おにーちゃん、鶴、嫌いなんだね」

「そうでもない」

即答してから、そうでもあるような不自然さに笑えてきた。
それをどう間違った方向に捉えたのは知らないが、物凄くイイ笑顔で作用・反作用の法則を実証しようとしてきたところをみると、だ。
事態が悪化したのはもはや、覆りようのない失態だった。

「じゃァさー!!わかった!あのね、こっち、こっち来て!!」

「っ、ッ!!だから!お前、ヒトのハナシを聞けっ!『じゃぁな』って言ったろ!!!」

不本意ながらフタリ綱引きをするハメに陥っているこの現状、この醜態、絶対に他人には見られたくない。
力の加減が解らないので、手加減せざるをえないし(決してオレが非力だからではない)

「んーん!!ホタル『ばいばい』って言われてない!」

「はぁ!?『ばいばい』も『じゃぁな』も同義語だ!!!」

「どぅーぎぃーごぉぉぉってぇぇぇなぁにぃぃぃぃ、うぃしょ!!!」

加えて、だ。加速度をつけて座り込むという性質の悪い運動を繰り出すから。
だから急に加速度をつけられたら、その場に居続けようとするオレには慣性が発生する、つんのめったのは決してオレが非力だからではない(二回目)

「おまっ!!?あぶっ、」

ない、と最後まで言えたかどうかは覚えてない。
この子を巻き込まないよう、受け身の体勢を取るだけで精一杯だった。

「おにーちゃん、ねぇ。ねぇ?死んじゃった?ねぇ、ってば!」

「死んだ。ふつーに死んだ。だから死人に話しかけるな」

えぇぇ、と不満そうな声が上から降ってきても、知ったことか。
自分のこの体勢に納得いかない。なんだこのアジの開き体勢は。
思いのほかショック過ぎて身体を起こす気にもならない。

「おにーちゃん、今日の朝ごはんのオサカナみたいだよ」

ぶふっ、と吹かれたのが気に喰わなくて身体を起こしかけて、やめる。
上半身だけ起こして頬杖をつくと、ちょこんと正座してるこの子と目線が同じだったから。

「おっまえ、ナァ」

これみよがしに大袈裟な溜め息を吐いてみたけど、受け取る側が全然堪えてないから完全にただの独り善がりだ。

けらけらとオレを笑う声に何も反応出来ないでいるのはどうしてだろう。
大体、オレを笑うような存在に対して(ソレがいい意味でも悪い意味でも)今まで容赦してこなかったハズだし。
感情の情報伝達が神経に届くのが遅い。
今日は自分が思っていた以上に体調が良くなかったのか、といまさら気付くなんて間抜け過ぎる。

「おまえ、じゃないよ」

「あぁ、そう」

「ホタルだよ。名前!おまえ、じゃないよ」

「ふぅん」

だから?
名前なんて、憶える気がないのならいわば記号みたいなモノだ。
「アシカワ」という記号ですら持て余してるのに、他人を認識する気は今のところ、まったく、ない。

「そーいうの、良くない!ヒトのハナシはちゃんと聞かないとダメなんだよ」

「あのな、それ、さっきオレも言った」

「ふーん」

・・・・・・・ヒトに言われると結構、ムカつくかもしれない。

「あ!!そうだった!あのね、ねね、おにーちゃん、おにーちゃん!!!」

それにどうしてこの子におにーちゃんと呼ばれるのがこんなに気になるんだろう。
気になる、というより気に入らない。
それは要するに、ニガテ、ということだろうか?

「美袋」

「み、にゃ?」

「違う。ヒトの名前なんだ、ハッキリ発音しろ。ミ ナ ギ だ」

「おにーちゃん、ミナギっていうの?」

「そう。だから、そう呼べばいい」

言ってから自分に後悔する、なんて初めてだ。
だから名前なんて記号なんだしこの子がオレのことをどう呼ぶかなんてことは、どうでもいいんじゃないか?

なんだろう、コレはナンだ?
片付かない思考にだんだん、苛々してくる。
ニガテ、ニガテ、ニガテ、それならニゲテしまえばいいんじゃないか?

「ミナギ!」

「え?」

きららかな黒い瞳が、さざめく。
名前のない苛立ちを掻い潜って、それはオレに届いた。

「ミナギ!ほら、早く!早く!!」

一足先に立ち上がって、オレを引上げようと唸っている、この存在を少しだけなら、認識してやってもいいかとあくまで少しだけ、思う。
カオの造り、で言えばアヤの方が上だ。間違いない(まぁ整ったカオではある、かもしれない)

だけど、モリオンみたいに真っ黒な瞳がやけにきれいな子だ、と思った。
この子がニガテだとしても、この真っ黒な眼は嫌い、じゃない。

「あのさ、うん、ホタルもね、あんまし鶴、好きじゃないんだよ。だって可愛くないもん。だけど、折れないの」

「なにが」

答えてしまった時点で、たぶん負けだった。
引き摺られるまま社の簡素な石階段を上って、濡れ縁に散らばった折り紙の海に辿り着く。
そこに浮かんでいたビート板ならぬ、大判の雑誌を拾いあげる。

「んーと、ちょっと待ってね。これっ!これ!」

「これ、鳩か?」

開きグセがついていたらしくその頁は、すぐに開かれた。

「うん。でも、折り方が、解んない」

ただ、激しく紙魚ならぬ、滲みで汚されてはいたが。

「お前、この上で寝たろ」

「うん」

ヨダレによって器用にも描かれたオーストラリア大陸は、やけに立体的に再現されていた。
自分の蟀谷が引き攣るのが解る(だからと言ってどうしようもないけど)

「お前、ここ擦っただろ」

「うん」

・・・・・・・・、寝言は寝て言え。

本を(例え雑誌だったとしても、だ)マクラにした挙句、ヨダレを垂らすなんぞ言語道断だ、ばか。

そもそも折り紙の鶴はメジャーでも鳩はマイナーなんじゃないのか?
折る過程の半分以上は擦れて判読不能で、それこそ図形が暗号化しているような状態だから出来上がりのイメージもクソもない。

「駄目だ、あきらめ、」

「無理かァ。じゃぁ、やっぱり鶴!ミナギ、折って」

かちん、ならず。がごん、とタライをぶん投げられた、様な気がした。

「嫌だね。お前、諦めたらそこで試合終了らしいぞ」

なんて言ってみたが、普段オレはそこそこ諦めるタイプだ(負けて勝つことが前提、だけど)
重要なのは「そこそこ」なだけであって、諦めが早い、というわけではない。
この暗号には程遠いモドキを解読したら「二銭銅貨」みたく「冗談」が出来上がるなら、それも面白そうだと思った。なら早々と諦めることは、ない。

「んー。ミナギ、やっぱり鳩の方が好きなんだぁー」

「サブレは鶴より鳩のがメジャーだろ」

言いながら、なんてアタマの悪い返しだ、と自己嫌悪に陥る。

「うーん?」

別に折りたくない、とかじゃない。
アーサー・コナン・ドイルよりも、エドガー・アラン・ポーの方が好きだ、そんな程度だ。
だからふいにカタワレのカオが過ぎったのだって、特に意味は、ない。


*


だから。
これは、ナンだろう。
いや、ナンだろうって、見ればわかるけど(って今日はこんなのばっかりだ)

雑誌の上には「冗談」になり損ねた鳩が数羽、転がっている。
暗号はとうに解かれた。特にすることもない。もうじきに陽が落ちる。此処に居る必要はない。

ただ、右肩に圧し掛かる特に重くはないが、無視も出来ない重みをどうしたものかと思案している最中では、ある。
傍らのイキモノはふ、と気付くとちゃっかりとオレが折ってやった鳩を片手に、暢気に惰眠を貪っていた。

ついさっきまで、一方的に喋ってみたり、歌(とは言い難いが)ってみたり、けらけらと笑ってみたり、とどう考えてもオレの邪魔しかしていなかったクセに。
静かにしてろ、とは唸りはしたけど、そうくるとは。

ゲンキンなものだ。
いや、どうしてこう、メンドウなことになったのか。

「確かに寝るな、とは言わなかった、な」

他人の体温を不快に思わない自分に、少し驚いてはいる。
まぁ、でもコレは不可抗力だったから仕方ないよな、と結論づけた。

起こす気にならなかったのは、数時間前のアヤを思い出したから。
こんな風にオレの傍に居てくれようとしたけど、どうしていいのか分からなくてつい、躱してしまった。
そうして結局は、アヤを泣かせてしまったんだっけ。

伯父さんとこに行くのはオレが、決めた。
そんなの随分前に決まってた、ただ言い忘れてただけで。
ただ、言い忘れてたことを伝えた、だけなのに。

叔母さんはいい大人なのに、泣いてもいたし、怒ってもいた。
泣くか怒るかどっちかにすればいいのに、両方同時にしようとするから収拾がつかなくなるんだ、なんて。
いつもみたく言えたら少しは、泣きやんでくれただろうか。

・・・・・・、あいつは、どうだったっけ。

「泣くよーなヤツでもなし。どっちかと言うと、アレはヒネるタイプだった、か?」

そうだな、勝手に自己満足を売りつけるな、ぐらいは言うだろう、確実に。
勘違いも甚だしい被害妄想で勝手に盛り上がるのが好きなヤツだから。

「ばーか」

オレにしてみれば、何を今更、としか思えない。
でも少しだけ叔母さんの晩酌(良く言えば)に付き合えなくなるはツマラナイな、とは、思う。
外野がこう、煩くなるのが解っていたなら9月の始業式に合わせるんじゃなくて、もっと早くにあっちに行けば良かった。

はぁ、とこれまた行き場のない溜め息を吐き出した弾みで、胡坐をかいたオレの腿のあたりにソレは転がり落ちてきた。
オマケに据わりが悪いのかころり、ごろり、と転がってついに自分にとって最適な場所を探し出した(らしい)

げんなりと、今度は自分の為の溜め息を吐いた。
ちょっとしたイヤガラセのつもりで、鼻の頭を指で摘まんでやると小さく唸ってから、がぱぁとだらしなく口が開いた。

ちょ、ヨダレを垂らすなッ、って?ッッッて???

「!!!!!!」

自分の置かれている状況が正しく理解出来ないでいた、ことに気付く。
慌てて鼻から指を離すとソレはとても満足そうに、オレの膝の上で寝返りすら打った。

まて。まてまてまてまて、ちょっと、待て!!!!!!

「っ、ぁう、」

声にならない叫びと、眩暈にも似た頭痛が唐突にやって来た。
ほとんど条件反射で額に手を押し当ててみても、熱はない。

おかしい。
熱がないなら、どうしてこんなにアタマが、がんがんと痛いんだろう。
ごんごんと耳鳴りも酷いし、どくどくと動悸も激しい、気がする。

ナンなんだ、これ??だから、こんなのオレは否だ。違う、否とかじゃなくて、こわ、

「あれぇぇぇぇ、わたる、なんでー?あのね、これ、鳩ぉー」

「!!!!ッ、!!!!!!!!!!」

にょこり、と起き上がったソレはへちゃけた笑顔でもってオレに飛びついてきた。

い、いやだ!!!!!あたっ、アタマ!!!あたまが、痛い!!!!

「待て!寝ぼけるな!!!オレは『わたる』じゃない!」

「あー、うん。み、ナギだー。れ?なんかミナギ、あっついよ?」

おねつ?と言いながら、こつんと小さな額が自分に合せられた、とき。

「う、」

「うん?」

「う、う、わ、」

「んー?」


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああああああん、


「あ。ミナギぃーーーーーーーーーーーっ、ほぉ、んーーーーっ、忘れてるよぉぉーっ」


こともあろうに、だ。
オレは逃げた、ご丁寧にも鳩だけ、ひったくって。

別に、鳩なんて欲しくなかったのに。
手にした鳩は、結局はウチに着く頃にはぐしゃぐしゃに潰れていたから、自分でもどうしてそんなことしたのか解らない。


――――、そうしてオレはその日から数日間、目出度く寝込むことになる。


だから、本当に勘違いしていたんだ。
もしかしたらニンゲンじゃない存在から性質の悪い風邪をうつされたもかもしれない、って。

だけど。
そう、今も色褪せることなく、憶いだすことが出来る。

期間限定の学校が始まってすぐに、ホタルはオレの前にやって来た。
わたるの横からびょこん、と得意げにカオを出してあの日オレが忘れていった本と、やっぱり不恰好な鳩、と一緒に。

ホタルがにひっ、と悪戯っぽく笑って鳩を差し出す。

(ね。ミナギ、鳩、すきだもんねー。だから、はい。ホタル、あげにきたんだよぉー)


        こうして鳩は、オレのもとにやってきた。

*


・・・・・・・んだ、ったっけ。


    それはオレにとっては、たぶん。ヒトメボレ、でハツコイだった。

 

「―――、なぎ。美袋、聞いてるのか?」

「聞いてる。けど、いま聞いても着いたら忘れる、多分。だから、あっちでハナシは聞くから。伯父さん、寝かせてくれると嬉しいんだけど」

「お前、また減らず口を、」

「オレの口を減らしたいなら、黙るのがイチバンだと思うけど」

まぁ、多分黙ってはくれないと思うけど。
機内の毛布を引っ被って、未だに聞こえてくる伯父さんの呪詛とも取れる小言を完全に遮断した。

こつり、と小さな窓に自分の額を押し当てる。

窓の外には無駄に白く光る雲と妙に眩しい青い空以外、ナニも、ない。
白々しいくらいに明るい空間のクセに鳩1羽さえ、居ないなんて詰まらなさ過ぎだろ。

そっか、違うな。
オレが鳩を置いてきたのか。

結局オレはまた逃げたんだな、と思うと我ながら情けないのを通り越して呆れてくる。
きっと、あの三橋神社の鳥居のとこでホタルは待ってるんだろう、オレが来るまで。

ずっと、ではないにしろ祭りが終わって、それでも帰って来ないホタルを心配したわたるや、美鶴が迎えにくるまで、は。


        「こーい、こい、はーとよ、こぃ」


えらく、調子っぱずれな歌に思わず笑った。全然、面白くもないのに。

名前、呼んでやれなくてごめんな。出逢った時も、いま、も。
まだ、しばらくは呼べそうに、ない。

それでも、「じゃぁな」は言わなかったから。卑怯だ、とは思う、けど。

また、いつかの日に、お前は。

あの日みたいに、オレの前にひょっこりと、いつものように、モリオンみたいな瞳で、悪戯に。


              きっと、笑うんだ。
 

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