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このブログは小説・映画の「ブレイブストーリー」の二次創作兼雑記ブログです。原作者様、各権利元関係者様とは一切関係ありません。
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ほーんとひっさびさだなぁ!

結局、亘さぁぁぁん、一行も出てきません。
あ、名前だけは出てるか?
 
かんっぜんに自己満足のシロモノですが、それでもどぉーんとこぉーいぃ!!と、笑って許してくれる御心の広い御方様。
 
読み難いシロモノですが、どうぞ御付き合い頂けたら幸いです。
見苦しいまでの言い訳はまた後日にでも。

ちなみにタイトルは、タマユラ、ソシテカギロイ、ユウヅツノチハナアカリ、とまぁ読み難い事この上ない。


あなたという存在はわたしにとって色褪せることのない、一条の華。

 

玉響、そして陽炎、夕星のち花明かり


降るような桜雨の下で。

小さな頃、それこそあたしの尻尾の毛がまだちんまりとした小筆の様だった時分。
一族の中で一、二、を争うほど綺麗だった熊野伯母さんにどうしたら伯母さんみたいになれるのか、と聞いた事があった。
それこそ芍薬が匂いたつ様な艶やかさで笑うと、こう言った。

「私みたいに、ねぇ?嬉しいことを。でも、胡蝶にはまだ無理じゃないかぇ」

無理、と言われたのが悔しかったので、あの時は伯母さんに喰って掛かった。

「あぁ、そう、そうねぇ。許してくれりゃんせ。そういう意味ではないよ」

まだ言葉通りの受け取り方しか知らなかったのだから仕方がない。

「見目の良し悪しのことではなくて、そうさね。いつか胡蝶にも一の人が出来たら、ね。私の言ってることが分かるようになるんだろうけれど、」

いち。いち、いちのひと。自分にとって最上のひと。
それが出来たからと言って、どう、なのだろう?
あたしのイマイチ解らない、という顰めっ面が可笑しかったのかは解らないけど、伯母さんは少し笑った。

「まぁ、私の姪っ子なんだから、今でも充分だけど」

あたしをぎゅう、と抱き寄せてそう、言った。

伯母さんの肩越しに見た桜がとても綺麗だと思うのに、それ以上に理由もなく淋しくなって、あたしはわんわん泣いた。
どうしてあんなに泣いたのかは解らない。
だけど、自分でも気付かないところできちんと理解していたんだとも思う。

これが伯母さんに会うのは最後で、きっと永いさよならになる、ってことを。
その景色が、想いが、今でも鮮やか過ぎて、あんまり、桜は好きじゃない。

伯母さん、ゆや、熊野伯母さん。
東のこちらしのお社の白狐第一命婦で、西方随一、と云われたならいだての御館様に見初められた、あたしの自慢の伯母さん。
だけど、それから程なくして伯母さんは官位も、一族さえも捨て置いてヒトの世に堕ちて往った、のだそうだ。

違う、伯母さんは選んだだけだ。
誰に聞いたわけでもなかったけど、伯母さんが恋をしたのはヒトだったってことを、あたしは知っていた。
伯母さんはあたしたちを捨てる、なんてことは思ってもいなかったんだと思う。

ただ、ヒトを選んだ伯母さんを私の一族は許さなかった、そういうことだ。
あの美しいヒトにもう会えないのはとても哀しい、あたしはあの時そう思った、んだけど。

だけど、伯母さん?
それとこれとは別で御恨み申し上げても宜しいかしら!

「要するに。人身御供、という訳ね」

「葛乃葉。久方ぶりに逢うクセにどうしてこう、アンタにハナシが筒抜けになってるのかしらね!」

「それは、だって。貴女の御母堂様が、って知ってるでしょう?昨日も、先刻もウチに御使いが来てたし。かーなーり、参ってらっしゃるみたいだけど」

それはあたしだって、というか、あたしの方こそね!と主張したい、切に。

「大体、もとは伯母様にきた話でしょうに!!慶事だって言うから帰ってきてみたら、なに!?あ、あたしのっ、誕生、あぁ、もー!!ぜんっぜん!違って!上臈に当方から推挙させたい、だぁッ?あのおっさんとこからじゃなくったって、ウチからでもじゅーぶん出来るってば!!」

いや、ちょっと言い過ぎだろうけど。
いくらウチでもやっぱり無理かな、とは思うけども!
以前の仕官先である刑部姫様のとこからならそれも可能だった、んだけど。

「はいはい、落ち着く!暗にあちらさんの御手付き、が条件になるんだろうけどねぇ。ま、でも今の貴女の仕官先からしたら悪いハナシでもないかもねぇ」

「うっさい!あのおっさんとこよりはマシ、だと言いたいィィィィ」

と、言い切れないのが腹立たしい。
御手付き云々に眼を瞑れば、あたしでもこのハナシの条件は結構いいんじゃないかってことは、分かるから。
伯母さんの件があっても遺恨を残さず不問に付して戴いたことにも、それこそ一族は額を地面に付けんばかりの勢いだし。

それでも、だ!

「うぅ、嫌だ。いーやーだー!!伯母様とでも、だーぃぶ御歳が離れてたのに!いーやーだァァァ、おっさん、いーやーだぁぁぁぁ!!」

「じゃ、どうすんの。蹴るの?そんなこと出来ンの?貴女、伯母様にそのハナシが来たときワザワザ自慢しに来たクセにーぃ?一度ならず二度までも、ってのは難しいんじゃない?」

「わーすーれーたー」

そう、出来るわけが、ない。
だから筒井筒の葛乃葉の屋敷に方違えと称して(簡単に言うと逃げた)押しかけたものの、そろそろ限界だ。
こうなれば適当に物忌み云々をでっちあげて篭もるしかない。

そもそもこんな事態になるなんて思ってもいなかったからクソ餓鬼、もとい、あるじに長の暇乞いの遣いを出せずにいる。
母様と父様から話を聞かされてから一週間、いっさい音信不通。

「ってもアイツはなー、全然あたしが居なくても気にしないだろーけど」

「は?」

「なーんにもー!!」

最悪、あたしが里下りした事すら忘れてるだろうけど!
ってかそうだろうよ、と独りで自己完結したら余計に腹が立ってきた。
完全な八つ当たりなのは自分でも分かってたけども、と手近にあった几帳につい鉄拳制裁を加えてしまった。

「ちょっ!!胡蝶!」

どうせ盛大に倒れるんだから派手な音を立ててしまえばいい、と鬱屈した気分で思った、瞬間。

「見てくれだけで言えば御令嬢が随分な挨拶だな?なるほど、中身の程が知れる」

聞き覚えがあると言うには白々しいぐらい聞き慣れた声、愛想のカケラもない見慣れた顰めっ面がカオを出す。
倒れてきた几帳をつ、と受け止めて脇に遣りながらこれみよがしの溜め息が吐き出された。

「そう思わないか?胡蝶」

一週間ぶりにまみえたあるじの態度は相変わらずで。

「それこそ先触れもなく御出でになるなんて。殿方の程度も知れませんこと?」

「程度、ねェ」

はん、と鼻を鳴らしながら薄く笑む。

・・・・・、可愛くない。

いつもの朱の着物ではなく、暑っ苦しいぐらいに青みが掛かった黒地の振袖。
さり気なく絞りが入ってるあたり如才ないのはいつものことだけど。
施された意匠は厭味なぐらい見事な雲紋、梅花、桜花、オマケに吉祥松と竹笹。
些か派手過ぎる金彩を品良く纏めるのは淡い青磁色の正絹帯(しかも波織地)

明らかに着るヒトを選ぶ振袖を、津恙無く身に纏えてしまう小憎たらしさ。

「それなりに礼は弁えたつもりだったが。そうか気をつけるとしよう、お前よりはマシな気はするが」

一言余計だっつーの。
とは言えあたしも年頃のおなごだ、自分のナリをつい条件反射で見てしまう。

ごくごくごく、無難な白花色に牡丹唐草紋が透かしで織られていて、気負いなく着れるところがあたしは気に入っている。
でも確かに上品と言えなくもないけど、あるじの振袖と比べると小袖だと言われても仕方のない訪問着では、ある。

というか!別にそんなこと気にしなくてもいいじゃない、と我に返る。

「なっ、なんなんですか!あーあーもーーー!!イキナリ湧いて出て来ないで下さい!葛乃葉!ほらっ、アンタの権限で追い帰しちゃって!!」

や、なんでこんなこと言ったか解らないけど、とにかくあたしは吃驚してもいたし、焦りもしたし、苛つきもしたし、その、なんというか。
意味もなく、居た堪れなくなっていたのであたしは葛乃葉に助け舟を求めた、のに、だ!

「お初に御目もじ致します、葛乃葉殿。先触れもなく参りましたこと、無礼なのは重々承知しております。ですが、焦眉の急にてお赦し頂きたいのです」

おいおい、普段は頑として下げないアタマを下げちゃったよーこのタヌキ!(狐だけど)

「あらあら!どうかお気になさらずに。御顔をお上げ下さいな。三橋の君のお噂はそこのチンクシャから、かねがね。御急ぎ、とあれば致し方ありません」

はー?チンクシャ!?筒井筒に向ってチンクシャだとー!!しかも仕方なくないってぇーの!!

「ほう。噂、ですか。御恥ずかしい。詰まらない者です、貴女方に話のタネを提供出来るとは思えませんが」

にこり、と笑ったあるじの衒いないカオにむしろ戦慄すら覚える。

「ふふふ。お察しの通り、ロクでもない話ばかりでしたけどね」

「そうですか」

すごーい、あたしを見る眼が全然笑ってないんですけどーあははははー。

「はい。ですが三橋様、御自ら拙宅にお越し頂きまして嬉しく思いますがこちらも喫緊時にて。本日はお引き取り願えませんか?」

葛乃葉は、婀娜に笑うのが様になる。
それだけで口煩い殿方の大半を黙らせる、なんて芸当あたしには到底出来そうにない。

自分にはない凄絶な色気がこの筒井筒には備わっているなんて、大いに不公平だといつもは思う。

うぅぅぅ、だけど、ね。
葛乃葉には悪いけど、今は乳離れもしてないよーなクソ餓鬼にはそれが藪蛇なんだってば、と大いに不満を漏らしたい。

「胡蝶」

「はぁいィ」

ほら。これだから、このトーヘンボクは!!
免疫がないのかこのクソ餓鬼、葛乃葉みたいなタイプを殊更、嫌がりやがる。
もうちょっとオンナの「機微」とやらを学んで下さいお願いします、と言いたい。

「帰るぞ」

「はぁいぃッ?」

用件だけ伝えると猫かぶり(狐だけど:二回目)は止めて、むしろ不遜過ぎる態で踵を返して階を降りていった。
厄介なことに相当、機嫌を損ねたらしい。
ままよ、とあまりお行儀が宜しくないけど簀子から飛び降りてあるじの後を追う。
横眼に呆れた様に笑う葛乃葉が映った。

「あのっ、あのですね!」

だから、ちょっと、それは事情があって、その、無理なんだってば、ってのをどーしたら解ってくれるかなぁ!
もう少しゆっくり歩け!頼むからヒトの話を少しでいいから聞けぇぇぇ!

「お待ちを、三橋様。今、この子をわたくしの屋敷に迎えに来たという意味、お解りになってらっしゃいますか?」

「さぁ?ただ、用があった。それだけだ。喧しく口出される謂れはないはずだが」

ぴたり、と歩を止めてからぎ、と不機嫌そうに葛乃葉に向き直った。

「わざわざ迎えに来る程ですもの。さぞかし火急の御用なんでしょうねぇ」

あたしのとばっちり(方違え)を蒙ったばっかりに、葛乃葉の一族にこのままでは累が及ばないとも言えない。
葛乃葉は、帰るなら自分を納得させてから帰れ、と言外に匂わせたものの、それが通じてるかどうかイマイチ解らない。
だってまだまだ尾守りが必要なお子サマだし。

「いや別に」

おまっ!お前、さっき「焦眉の急」とか小難しいこと抜かしてなかったかー!!
あーだめだ、もーだめだ。この餓鬼、ヒトの気も知らないで!

「あるじ!あた、じゃなくて。わたくしが里下りさせて頂いたのは、ですね!その、養女の話が出て、まして!」

「は?お前の大夫殿も母君も健在だろう」

「あぁ、はい。その、ならいだての御館様があの、あちらの家からならわたくしを上臈に推挙してやれるから、とかなんて、ですね!」

「有り体に言えば後見してやるんだから、御手付きぐらいいいだろう、と。ま、そんなことあちらは言ってきやしませんが、」

両家とも暗黙の上での合意でしょう、と葛乃葉の言にあるじの眉間にこれ以上ないぐらいの深い皺が刻まれる。
この手のハナシは、あるじにはまだ早い、だろうけど。
いくらまだまだお子サマの域を脱していないにせよ、言わんとする意味は理解できたらしい。

「で、お前はそれでいいのか?」

「ハァ?っわ!」

さぁ、と一陣の風が渡って庭に植えられた桜から花弁がひらりひらりと舞い降りてきた。

こんなこと前にもあったなとつい、見上げてしまう。
あぁ、やだな。湿っぽいのって、好きじゃないんだけど。

「いいも、悪いも。そんなこと、わたくしの一存では決められやしないんです。ほら、あるじの時だってそうだったじゃないですか」

「お前、泣いて嫌がったじゃないか」

「泣いてません」

失礼な。確かに激しく抵抗はしたかもしれないけども。

「ふん、相当嫌われてたからな」

そういうつもりじゃなかったんだけどね。
マァ、過ぎたことじゃないですか、と言おうとしてやめた。
自分の身の振り方をようやく決めたのに、言ってしまったら振り方を忘れてしまいそうだったから。

あるじは面倒そうに降ってきた桜の花弁を、頭をぶるりと振って払っているけれど、まだ、ひとひら。
まったく、情緒なんてあったもんじゃないナァと思いながら、その髪に張り付いた花弁を手に取って、ふぅと吹く。

「やっぱり桜色、ですねぇ」

虚空にまやかしの蝶がひとひら、瞬いて、煌いて、消えていく。
その様を見送る様に見つめているあるじに降る桜は、やっぱり綺麗だったけれど。
きっとあたしはこれからもずっと、やっぱり桜は好きになれそうにないな、とこっそり諦めた。

「ながむとて 花にもいたく 馴れぬれば 散る別れこそ 悲しかりけれ です、かね」

こんなもって廻ってはぐらかす様な言い方、ほんと、らしくないな、と思う。
いつだって直球勝負があたしの信条だったのに。

「お前はそれでいいのか、ってさっきから聞いてるんだが」

金の眼があたしを真っ直ぐに見据えてくる。
あのさ、らしくもなく、それっぽい詠(ヒトのだけど)を詠んだのにちっっとも!ソレを汲んでくれないって、どうなの!
だけど、そういうとこ、らしいな、と可笑しくなって、嬉しくなって、でも、悲しくなった。

それ、聞きたいんだ?聞くんだ?
あるじのバカヤロウ!!だから、だから、モテないんだからね!!!

「ッ、だから!あたしが勝手に決めちゃいけないんだってば!わからずや!!トーヘンボク!しみったれ!とんちきっ!だけど、そんなんもう慣れたし!仕方ないなぁ、って!そう、思うのに、だからッ!だけど、あたしがどう足掻いたって、もう無理、なんだってばぁっ!!」

それまで黙っていた葛乃葉が、そっと肩を抱いてくれた。
ぽんぽんと背中をあやす手があんまりにも優しいから、結構、困った。
おいおいと、小さな頃みたいに泣けたらラクなんだろうけど。

「だから?お前は俺の眷属だったよな」

「ナニ今更、当たり前のこと言ってるんですかっ!!!」

ぎっ、と向き直ったその時。

「そうだな」

ふ、と口の端を持ち上げて笑う様の背後に来臨せし言辞は天上天下唯我独尊。

「葛乃葉殿。ならいだての、には俺から話をつけましょう。貴女の一族に累が及ぶような下手は打ちません、御安心を。なので返して頂けませんか」

そいつは俺のですから、とのうのうと言ってのけた。

なんで今日、このタイミングで?
いやさ、間違ってはいないんだよ、そのセリフは!「眷属」の範囲内で、ってことだろうし!

「胡蝶?」

だけどさ、その、なんというか。
誤解、を招きかねないんじゃなかろうか、その、おなごだったらさ!
本人が無自覚な分、余計に性質が悪い!!

あわわわ、と一人で焦っていると、笑いを堪えた葛乃葉と眼が合って、余計居た堪れなくなった。

「大事にされてるんですね、この子のこと」

「眷族が主人の傍にいるのは当たり前では?そいつ以外に眷属を持つ予定はないので、って何か?」

「だ、そうだけど?」

まじまじ、と葛乃葉に顔を覗き込まれた挙句、とうとう吹き出された。

「葛乃葉っ!このトーヘンボクの言うことにヘンな意味はないからッ!確実に!!」

「トーヘンボク、ってお前ねぇ。まぁいい。おい、置いてかれたいのか」

差し出された手に、あたしは息を呑んだ。
初めて、じゃなかろうか、あるじがあたしを待っていてくれるのは。
ぼんやりとしていると、隣りで柔らかく葛乃葉が微笑んだ気配がした。

「葛乃葉?」

「こればっかりは、ねぇ。貴女が選ぶことだから。ま、ウチのことは気にしなくていいみたいだし」

ぱっ、と肩に廻されていた手が離されると、自分でも笑ってしまうぐらい、それは自然だった。
ごく当たり前の様に、眼の前に差し出された手に自分の手を重ねていて、吃驚するよりも納得してしまった。

まいった、なぁ。
多分、これから色々と面倒なことになりそうなのに。
それでも、迎えに来てくれた、望んでくれた、手を取ってくれた、だから。

「ごめん、葛乃葉!迷惑ばっか掛けて!落ち着いたらまたっ、また来るから!」

「ウチに来る時で落ち着いてた時って、あったぁ?まぁ、貴女らしいけど。いつでもおいで」

うん、今度も多分、落ち着いてないんだろうなぁとこっそり、思う。
ひらひらと手を振る彼女は、いつもの様に諦めたような、呆れたような、見慣れた笑顔で見送ってくれた。

「遅い」

あたしが自分の手を取ると信じて疑わない、傲岸な物言い。
身の丈なんか五尺にも満たないし、乳離れしてないのかってぐらい青臭いから尾守りも必要だし、オマケに可愛くないクソ餓鬼で!
でも、だからこそ、傍に居てあげてもいいかな、と思ったら、ナンだかな、と思って笑ってしまった。

「はいはーい、すみまっせーん!で、その焦眉の急とやらはナンだったんです」

あぁ、と言ったきり妙に押し黙るので繋いだままの手をくいくいと引っ張って促してやる。

「だから夢見奴妓が、」

「あー、大瑠璃の。あるじの数少ない御知り合いが何です?」

如何にも取ってつけた様に、しぶしぶの態で。

「桜。だから今が、一番いい頃合だから、と言ってきて、だから、だな」

もそもそと歯切れの悪いこと、ったら、ない。

「ふーん。そんなにあたしと花見がしたいんだ?」

「ばッ!!ちがっ!!お前、その性質の悪い勘違い、治した方がいいと思うぞ、絶対!あぁ、そう、そう!亘を呼びに行かせたくて、だから!」

だからさっきから「ダカラ」が多いんだってば。
ちょっと揶揄っただけなんだから、そんなにムキにならなくてもいいのに。
結構、面白くない。

そうして、いま気付いた、と言わんばかりに(我に返った、と言う方が正しいかも)繋いだ手を離そうとしたから、ほんの少しだけ。
悪戯心に、少しの、なんだろう?イヤガラセを込めて、離れていこうとした手をしっかりと掴みなおした。

「今日は亘様には遠慮して貰いましょう。桜が散るには、まだ間があるんでしょう?それに、」

そう、これ重要。

「わたくし、あるじに言祝いで頂いたことないです」

「ハァ?」

なかなかにけったいなカオしてくれる。
しぃ、とばかりに自分の口許に人指し指を一本。

「今日、わたくしの誕生節なんです。内緒にしておいて下さいね、殿方で知っているのは貴方だけです」

無自覚にやられっぱなし、じゃぁねぇ。
ぽかん、としているあるじのアホ面が可笑しくて声をあげて笑った。
ま、これだけでもう、いいや。

「さぁ、ってと!冗談です、いや誕生節は本当ですけど。亘様を御迎えにあがりますね、わたくし」

どーだ、これで一矢報いたぞ、と一頻り笑ってから気分良く手を離したあたしに、あるじはやれやれ、と云わんばかりの溜め息を吐いた。

「いや、いい。来い、さっさと来ないと今度は置いていくからな」

「へ?あの、だから、」

「だから、二度はないから、よく憶えておけ。綺麗だと思ったから、赦してやる」

ナニを言われてるのか解らなくて今度はあたしが、かぽぉん、とする番だった。

「それって桜が、ですか?その、あの、もしかしての、あたし、がですか?」

主語がないのよ、このクソ餓鬼は!!ナニが「思ったから」だ、紛らわしい!
なんだかこんなふうに聞いてる自分が結局はハメられたような気がして間抜けなこと、この上ない。

「さぁ、どうだろうな?」

にっ、と笑ったあるじはどんなに艶やかで華やかで美しい花よりも、ずっとずっと、ずっと。
あたしにとって、あなたは。


あなたという存在はわたしにとって色褪せることのない、一条の華。

 

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